1.心療内科とは
ストレス社会といわれる現代、身体だけでなく心理社会的要因すなわち”ストレス”を含め、心身両面から治療を行うことの重要性がさけばれています。
心療内科は、「心理療法内科」を語源とする内科の一分野で、主にストレスと関連した身体疾患である「心身症」を専門とし、心身両面からの全人的・心身医学的評価および治療を行います。
心身医学的視点と内科的視点の両方を持つ心療内科医は、産業医として、働く人のメンタルヘルスおよび健康管理(健診)分野においても、広く活躍しています。
対象疾患および症状について
当院では、「心身症」のみならず、ストレス関連症状である「こころの症状」「からだの症状」にも幅広く対応しております。
1)心身症について
「心身症」とは、身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子(いわゆるストレス)が密接に関与し、器質的障害ないし機能的障害の認められる「病態」と定義されています。
以下に、心身症の病態を示すことのある代表的な身体疾患とその例を示します。
- 緊張型頭痛
- 片頭痛
- 気管支喘息
- 甲状腺機能異常
- 不整脈
- 高血圧
- 脂質異常症
- 糖尿病
- 逆流性食道炎
- 胃十二指腸潰瘍
- 機能性胃腸症
- 過敏性腸症候群
- 過活動膀胱 etc.
【心身症の例】※フィクションです
糖尿病(心身症)
糖尿病の診断で内服治療をしているが、仕事が忙しくなったり不眠が続いたりすると、ストレスで過食し、運動もしなくなる。結果、血糖値やHbA1cが上昇し、糖尿病が悪化する。(ストレス→過食・運動量低下→血糖コントロール悪化のパターン)
高血圧症(心身症)
高血圧の診断で内服治療をしているが、ストレスがかかると飲酒が増え、血圧のコントロールが不良となる。(ストレス→飲酒→血圧コントロール悪化のパターン)
緊張型頭痛(心身症)
受験勉強のため、睡眠時間を削り、根詰めて何時間も机に向かって勉強をしていたら、締め付けられるような頭痛が続くようになった。(ストレス→睡眠変化、姿勢保持→頭痛発症・持続のパターン)
下痢型過敏性腸症候群(心身症)+広場恐怖症
もともと緊張すると下痢するタイプ。満員電車に乗車中、急激な腹痛に襲われ途中下車。なんとかトイレに駆け込むも下痢。
以降、不安な時に腹痛と下痢を繰り返すようになり、「またおなかが痛くなるのではないか…。」という不安が付きまとうため、電車に乗れなくなった。また、スーパーマーケットや映画館などの人混みや逃げ場のない状況も避けるようになった。
(ストレス→腹痛・下痢→予期不安→回避行動のパターン)
2)ストレス関連症状について
心のストレスは身体に影響を及ぼし、身体のストレスは心に影響を及ぼします。
心と身体のつながりを心身相関といいますが、心身相関の結果、様々な症状がこころとからだの両面に現れることがあります。
以下に、ストレスと関連した代表的な「こころの症状」、「からだの症状」を示します。
a)こころの症状
- 抑うつ気分:気分が沈む、落ち込む
- 興味の低下:物事に対し興味が持てない、楽しめない、億劫で腰が上がらない
- 不眠:寝付けない、途中で目が覚める、朝早く起きる、寝た気がしない
- 自責感:自分に対する自信がない、自分を責めてしまう
- 集中困難・決断困難:集中力が続かない、決断力や判断力が落ちている
- 不安焦燥:いらいら、そわそわする
- 過緊張:緊張しすぎてしまう(対人場面、定期試験や入学試験など)
- 恐怖症:特定の物や行為が怖い(注射が怖い、乗り物が怖い、動物が怖いなど)
- 予期不安:またそうなったらどうしようと不安が続く
- 広場恐怖:逃げ場のない特定の状況に対する不安や恐怖および回避
- 強迫観念・強迫行為:繰り返し同じことを考え、確認ばかりしてしまう etc.
⇒うつ病、パニック症、社交不安症、強迫症、恐怖症などの可能性も考慮が必要です
b)からだの症状
- 微熱、ほてり、多汗、冷汗
- 頭痛、めまい、耳鳴り
- 血圧上昇、頻脈、動悸(どきどきする)
- 血圧低下、血の気が引く、立ち眩み、
- 呼吸困難、過呼吸、息切れ
- 味覚異常、口の渇き、のどのつかえ・つまり感
- 胃酸逆流、胃もたれ、心窩部痛、吐き気、食欲低下
- 腹痛、下痢、便秘(便性状の変化、トイレ回数の変化)
- 頻尿、排尿困難
- 筋肉・関節のこわばり、肩こり・背中こり、腰痛、筋肉痛
- 手足の震え・しびれ・痛み etc.
これらの、こころの症状、からだの症状は、一過性のストレス反応の場合もあれば、身体疾患症状の場合や、抑うつ症(うつ病など)や不安症(パニック症、社交不安症、強迫症、恐怖症など)関連症状の場合もあります。
当院では、これらのストレス関連症状に対しても、心身医学的な評価による正しい診断のもと、エビデンスに基づいた治療を行います。
※ただし、幻覚、妄想、希死念慮、自殺企図、発達障害、注意・学習障害などについては、当院の守備範囲外であるため、精神科専門医の受診をおすすめします。
診察について
当院では、心理社会的背景を含めた問診に加え、必要に応じて内科診察、採血・採尿、心電図、超音波検査および心理テスト等を実施し、包括的な評価を行います。
診察の結果、治療が必要と判断された場合は、診断名と診断根拠を説明し、治療の選択を一緒に考えます。
治療について
患者さんの状態に合わせ、薬物療法、心理療法、リラクセーション法を組み合せて治療をおこないます。
薬物療法では、内科治療薬のみならず漢方薬や、必要に応じて睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬などの向精神薬を併用し、心身両面からの症状改善を目指します。
効果や副作用、薬物の使用期間や増量・減量についても丁寧な説明を心がけ、薬剤による副作用が出ないか、定期的な採血・採尿検査を実施しています。
心理療法については、予約時間(再診10分/人)の中で、支持的精神療法、認知行動療法、解決志向型アプローチなどを取り入れております。
しかし、当院にはカウンセラーがおりませんので、カウンセリングや心理療法に十分な時間が必要な場合には、外部カウンセリングルームを紹介させていただきます。
セルフコントロールのためのリラクセーションとして、腹式呼吸、漸進的筋弛緩法、自律訓練法なども随時指導しております。
心身症やストレス関連症状の緩和だけでなく、入学試験や資格試験、採用面接時に緊張しやすい方にも指導しておりますので、リラクセーション指導を希望される方は、どうぞお気軽にご相談下さい。
最終目標について
以上の治療を組み合わせ、自身の体調やストレス状況を客観的にとらえ、必要に応じてそれに対処できるようになることを一緒に考えていきます。
気づきとセルフコントロールによる、自己効力感および自己肯定感の回復こそが、心療内科における治療の最終目標となります。
心療内科専門医について
心療内科専門医は全国でも数が少なく、2025年1月1日時点で、全国に104名、神奈川県に6名です。
心療内科専門医・登録指導医として、心身両面から皆様の健康をサポートし、自分らしさを回復するお手伝いができれば幸いです。
(日本心療内科学会ホームページより抜粋)
心療内科医は、きちんと身体を診ることができる内科医であり、心身医療の専門家であることが重要です。本学会では、心身医学を学び、内科だけでなくさまざまな領域で心身医療を実践している医師・歯科医師を登録意として認定しています。
また、登録医の中でも、特に心療内科学の発展に貢献し、心身症の医療技術に優れ、治療経験が豊富な登録医を「登録指導医」とし、更に高度な知識と医療技術を習得していると認めた内科医を心療内科専門医として認定しています。
心療内科について更に詳しく知りたい方は、日本心療内科学会ホームページ内「一般の皆様へ」をご覧ください。